吊り物装置
舞台機構の中で、舞台の上から吊ってある物を「吊り物」と言います。
各種幕類やサスペンションライト、反響板や美術バトンなどがあります。
この内、手動の物を「手引き」、電動の物を「電動(そのままか・・・)」と言います。
電動の吊り物の上げ下げは「操作盤」で行いますが、手引きの物は「綱元(つなもと)」と言うところで操作をします。
右の写真がその綱元ですが(ちょっと見づらい・・・?)、ロープと四角い固まりがおわかりでしょうか?
手引きの吊り物は、このロープを手で引いて吊り物の上げ下げをします。(概略図参照)
ところがこのロープ、マニラ麻でできているのでトゲをよくゲットいたします。
標準作業としては、革手袋をしなければならないのですが、面倒がってしないと痛い(しかも鬱陶しい)思いをします。
手引きの吊り物は、吊った吊り物とバランスを取るために「鎮(しず)」と言う物を綱元で積みます。それが、写真の「四角い固まり」です。
鎮を積み込む枠を「鎮枠」と言います。大抵の場合、どのくらいの重量まで吊り物をつれるかは、この鎮枠に鎮がいくつ積めるかで決まります。
おおよその目安として、手引きの場合は200kgまでぐらいが限度です。
鎮1個はおおむね10kg前後なので、20個ぐらいで鎮枠はいっぱいになってしまいます。
また鎮を取り扱うときは、重いので細心の注意が必要です。私も鎮ではなく、鎮が鎮枠からはずれないように押さえるための鎮ストッパー(鉄製で数百グラム)が、50cmぐらいのところから落下して指を挟んだことがありますが(一応ネジで締めるようにはなっているが、これがよく落ちる)、その痛さと言ったら筆舌に尽くしがたい物があります。声も出ないほど痛いし、爪は内出血するはで大変でした。たかが数百グラムでそんな有様ですから、10kgの鎮を落としたら・・・考えたくもない・・・気をつけよう。
また、アンバランスの吊り物はたいへん危険です。
ロープは右の写真のようなストッパーで固定しますが、極端なアンバランスの場合これだけでは不完全です。
基本的には「必ずバランスを取る」のが絶対条件ですが、仕込みやバラシの時に一時的にアンバランスの状態になることがあります。
前述のように、手引きのバトン(吊り物を吊り込むバー)には200kg程度まで吊り込むことができます。と言うことは、200kgのアンバランスができる可能性があると言うことです。
もちろん我々は、こんな時にはいろいろ工夫してその危険を回避していますが(その方法についてはこちら)、まれに事故が起きるのも事実です。
ことほど左様に、綱元と言うところは「大変危険な場所」です。大抵は鉄製の網(フェンス)で囲まれてはいますが、そうでない小屋もあります。
綱元の操作は熟練者が行わなければならないのは言うに及ばず、一般利用者の方々においては綱元に立ち入ったり、不用意にストッパーをゆるめたりしないようにお願いいたします。
一方電動の吊り物は「操作盤」のページでも詳しく述べていますが、ここではその構造について少々述べようと思います。
電動の吊り物には、手引きと同じ様な仕組みの「カウンターウエイト方式」と「巻き上げ式」とがあります。
カウンターウエイト方式とは手引きのところでも述べたように、吊り物に見合うバランスおもり(カウンターウエイト)があり、吊り物とカウンターウエイトの間のワイヤーをモーターで動かすことによって、吊り物を上下させます。(概略図参照)
巻き上げ式はカウンターウエイトが無く、モーターの力だけでウインチを巻き上げます。この方式は、ギアボックスや動滑車などを併用して、重量物(反響板など)に用いられます。
このように、吊り物の手引き・電動にはそれぞれの特性から、それぞれの利点があります。
「操作盤」のページで「美術バトンには手引きが適している。」と述べたのは、特にドロップなどの幕類に関して「速度が自由に調節できる」「たっぱのバミリが容易」「電動よりすばやく上げ下げできる」「異常が体感できる」などの利点があるからです。
たとえ重い吊り物でも、前にも述べたようにバランスさえ取っておけばこの利点は生きてきます。
ここまで吊り物についていろいろ述べましたが、舞台上はこのようなある意味で「危険な」装置がひしめいています。
プロの方々はそのようなことを熟知しているので、もしぶつかったりしても「自分が悪い」ということで済みますが(語弊あるかなぁ・・・)、もし我々が利用者の方たちにぶつけでもしたら大変なことになってしまいます。
「安全義務を怠った」ということになってしまいます。我々がつい語調を強くして注意するのも、安全確保のためです。
反響板が動いているときなど、そばに寄らないだけでなく、見えない位置までとんでいる場合でも「動いている吊り物の下は危険!」と言う認識を持って、なるべく真下へは来ないようにしましょう。
我々も充分気をつけてはいますが、利用者の方々もその辺の事情をご理解の上、「舞台では常に天地左右に気を配る。」ことを忘れないでください。
それぞれの吊り物に関しては、また別コーナーでご紹介します。(予定)
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